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著名人が語る「私のこだわり空間」21




フォトエッセイスト 土器典美さん

日本のキッチンにアンティーク雑貨ブームを巻き起こした土器典美さん。南青山に建てたオフィスを兼ねたご自宅には、シンプルなのに温もりがある、心地よい空気が流れていました。
フォトエッセイスト 土器典美さん
2階のリビングダイニングをテラス側から眺めたところ。ダイニングテーブルは仕事の打ち合せテーブルにもなる。「窓はシングルの普通のタイプだけど、どう組み合わせたら洒落て見えるか工夫しましたね」。右奥がキッチンのある通路。
料理やインテリアの好きな人なら、誰もが一度は憧れたことのあるカントリー風のキッチン。そこに並ぶ欧風の台所道具、たとえばホーローの鍋やパンを切る木製ボードなどをいち早く日本に紹介したのが土器典美さん。アンティーク雑貨のお店「ディーズ」を15年間経営した後、現在はフォトエッセイストとして活躍中です。

エッセイにもたびたび登場して、ファンにはおなじみの「山の家」とは別に、土器さんは3年前に南青山にオフィスを兼ねた自宅を建てました。外観はシンプルでモダン。木の温もりにあふれた山の家とはまったく違う印象です。

「私は、家というのは周りの環境に合った外観やインテリアの方が心地いいと感じます。山の家では、のんびりお茶を飲んだりパンを焼いたりして過ごすからカントリー風が合っていたけど、都会には都会の環境や暮らし方があるから、家もそれに合わせてシンプルに。ここは自宅であると同時にオフィスでもある場所だから、人が気軽に出入りできるように、開放的な雰囲気にしたいと思いました」

表参道駅からスグという立地。土地代に予算が回ってしまう分、建物はできるだけ経済的に、と工夫したそうです。その1つが、正方形を9等分した四角いグリッド(格子)で間取りを決めていく方法。その方法だと低予算の上、真ん中の吹き抜けを囲んでぐるぐる回れる、行き止まりのない開放空間ができあがりました。

好きな街、青山で土地を探すことをあきらめかけたころに見つかった「不動産屋さんいわく、駐車場の取れないヘンな土地」。狭い通路の奥に建つ。1階がギャラリー、2階が土器さんのオフィスと住居、3階がパートナーの住居。

2冊目の著書『ラクダに乗ったラクダのかご』の表紙を飾ったかご。いまもキッチンでモノ入れとして活躍。このかごを持って本物のラクダに乗り、サハラ砂漠へ行ったという土器さんのお伽噺のような本当の話。


2階から1階ギャラリーを見下ろしたところ。吹き抜けの向こうの窓越しに、人の動く様子が見え、家は舞台のセットのような楽しさがあります。
ブリキのバケツを逆さまに取り付けたレンジフード。「リビングからも見えるこの場所で、機能よりも愛嬌を重視」した、土器さんの驚くべき見立て力。手前にあるのがアンティークのパンボード。「アンティーク雑貨の値が高くなりすぎて、道具としての魅力を超えた」のも店を閉じた理由のひとつでした。
土器さんにとって今回の家づくりのなかで一番の冒険だったというのが壁の色。これまでは温かみのあるオフホワイトやしっとりしたベージュを選んできたのに、今回に限って部屋を「真っ白な箱」にしてみたいと思いました。外国のオフィスのイメージです。

悩んだ末に2階部分の壁をすべて真っ白に。結果はというと、最初はなかなか慣れなかったけれど、2年、3年とたつうちに、都心とは思えないほどの日当りのよさと人の出入りの多さで、壁はほどよく焼けたり汚れたり。だんだんいつもの温かみのある土器さんカラーに近づいてきたそうです。白い壁を背景に、床のキリムやカーテンなどの布、籠、木といった最小限の自然素材が、かえって温もりを感じさせます。

「私にとってインテリアのセンスがいいというのは、その部屋自体がかもし出している空気感だと思います。雑誌で見た素敵なモノを自分の部屋に並べたからといってそれだけではセンスのいい部屋にも心地いい家にもならない、という経験があるでしょ? それは空間の中でそのモノが活きてないから。モノがどれだけ活き活きするかということが大事だと思います。たとえば、私がお店で扱っていたキッチン道具は、山の家へ持っていくとすごく似合って、本当に活き活きしていました」

この家の中で一番目を引くモノは、キッチンに吊るしたバケツでしょう。これがレンジフードだと気づくと、思わず愉快な気分にさせられます。都会的でちょっと取り澄ました空間の中で、バケツが放っている愛嬌。バケツも何だか自慢気です。空気感は目に見えないものだけに、真似しにくいものですが、“モノが活きる部屋づくり”にヒントがありそうです。

1階のギャラリー。「展覧会の前後はダンボールが届いたり梱包を手伝ったり、想像以上に雑用が多い(笑)」
キッチンから吹き抜け越しにテラス側を見たところ。ここにも正方形の窓が使われています。向こうに見えている階段が、1階のギャラリーへ下りていく階段。


土器さんのアンティークバイヤーとしての目利き、審美眼。そして自由なライフスタイル。そのすべてにおいて多大な影響を受けたのが、セツ・モード学院の学校長、長沢 節先生でした。四国の高松で過ごした高校生時代、ふと手にとったセツ先生の本。

「これが日本人の絵なの! 何てカッコいいんだろうって。セツ・モード学院という絵の学校があると書いてあったので、迷わずここに行こうと決めて」。そして上京。少しでも学校に長くいてセツ先生と接していたくて、学校内のカフェでアルバイトもしました。
「先生からはものすごく大きな影響を受けましたが、一番は、自由に生きるってことがどれだけ素晴らしくて、どれだけ大変かということ。教えるというよりは、セツ先生が自分の生き方で見せるという感じでした」





現在、1階のギャラリー「DEE'S HALL」で、月に1回くらいのペースで企画展を開いています。それは器だったりお茶の箱や茶杓などの工芸だったり、花やファッションだったり。

「見せて売るというだけではなくて、つくり手の気持ちが伝わるようなモノをつくっている人の展覧会をやりたい。そこに来た人に何かを感じてもらい、つくり手とつながっていける場であったらいいなと思っています」

企画展に参加する作家やアーティストの多くは、土器さんが「ディーズ」時代に知り合った人たち。買いつけた雑貨は四方に売られていってしまったけど、モノが結びつけてくれた人たちは、いまも土器さんの周りを囲んでいます。「展覧会の合間にふっと2階に上がってきて昼寝をしたり、シャワーを浴びてたりね」と笑う土器さん。ホームオフィスは、本当の自由と、土器さんの空気を愛するそんな人たちの空間でもあるようです。


セツ・モードセミナー出身。アンティークバイヤーとして6年間イギリスに滞在後、アンティーク雑貨店「ディーズ」を1980年開店。1995年閉店。その後フォトエッセイストとして活動。2001年ギャラリー「DEE'S HALL」をオープン。著書に『週末、山の家に行く』『ラクダに乗ったラクダのかご』(共に主婦の友社)、『だからキッチンが好きなんだ』(講談社)など。
ギャラリー入口横の庭。庭木はすべて港区の植物リサイクルの制度を利用。区内で庭木が不要になった人が区に引き取ってもらい、家を建てた人がそれをもらい受けるというシステム。2階のベランダにはミカンの木があります。

ギャラリーの階段を上がったところにあるオフィスで。「私の高校生時代はまだ日本にファッション雑誌がなくて、フランスから『ELLE』を取り寄せていました」。絵や本の好きな少女だったそうです。

近著『だからキッチンが好きなんだ』(講談社)。この家のキッチンをはじめとして、キッチンにまつわるそれぞれの愛着が語られています。


キッチンからダイニング方向を見る。アイランドの横が通路になっていて、土器さんも打ち合せに来た人もみなここを通り抜けます。キッチンの白いタイルは「ここだけはこだわった」という“ウマ張り”。上下をずらしながら張ることでニュアンスが生まれています。


写真=林 雅之
photo=Masayuki Hayashi
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