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ホーム > 暮らしの役立ち情報 > 著名人が語る「私のこだわり空間」 > 「食」を楽しむ 挿花家 二部治身
著名人が語る「私のこだわり空間」12




挿花家 二部治身さん

挿花家、エッセイスト、暮らしの演出家として、多くのファンを
持つ二部治身さん。雑木林に囲まれた見晴らしのよい家では
「自然を愛でる宴」がしばしば催されます。
挿花家 二部治身さん 挿花家。1男1女を育て、自然を愛し、暮らしを楽しむ中から、独創的な料理やアートを提案しつづけている。主な著書に『百の緑 千の草花』『日本の香り』『宝もの、見つけた』(以上、文化出版局)、『野のいろ花のいろ』(神無書房)、『二部治身の美しい暮らし十二か月』(マガジンハウス)など。1940年、香川県高松生まれ。
雑木林の中にせり出した空中リビング(見晴らし台)。「料理や原稿書きの合間にここでお茶を飲むとリフレッシュします」。テーブルの大ザルの下には炭火のかまどが設えてあります。二部さんが手にしているのは前日庭で摘み取った柚子の花。
今でこそ、道端のエノコロ草やペンペン草を活けて家の中に飾っても、誰もヘンだなどとは言わないけれど――。花は花屋さんで買って活けるもの、とみながそう思い込んでいた20年以上も前から、二部治身さんは、日本のどこにでもある草花の美しさを、雑誌や本で紹介してきました。いつからか「挿花家」と呼ばれるようになり、ナチュラルでおしゃれな暮らしを望む女性たちの憧れの存在に。

東京都の多摩丘陵を見下ろす高台にある二部さんのお住まい。コンクリート打ちっぱなしの外観とつるばらのアーチが印象的です。二部さんは時折、大勢を招いてパーティを開きますが、その舞台となるのは、特大テーブルのある2階のリビング(表紙の部屋)と、そこから階段を少し下りたところにある「空中リビング」(写真上)。東屋と呼ぶ人、見晴らし台と呼ぶ人もいます。

「両方のリビングを合わせたら80人くらい座れます。二手に分かれてパーティをしていたら、東屋組はいつまでたっても家の中に戻ってこない。屋外の方が話が盛り上がるみたいなんやね。主人が“そろそろ交代しましょう”と告げに行ったりしています(笑)」

二部さんがパーティを開くのは、庭にある旬のものを食べて欲しいとき、花が咲いて見頃というとき、雪が舞うその一瞬など。

旬との一期一会。なんとしてもスケジュールをやりくりして訪れたくなる、二部さん流の誘いです。

イネ科の草、茅。「葉をとって茎の美しさを見せるように活けたい。摘むときに、ゴミや枯れ枝をとり整えながら束ねるのがコツ」。

玄関脇のコンクリート壁をおおい隠さんばかりに繁る「なにわいばら」。5月、白い清楚な花をつける。もとは1本の挿し木から。
2階リビングの横に位置する台所。海外の市場などで買い集めた台所道具がぎっしりとディスプレイされた「楽しげな」キッチンです。写真中央が30年以上も愛用している中国製の魔法瓶。
リビングを窓側から眺める。正面上の屋根裏部屋には、世界中から持ち帰った「かご」がどっさりと。右手のベンチ前にあるテーブルは、空き缶リサイクルの台にガラス板を置いたもの。暖炉は飾りではなく、本当に活躍しています。

2階洗面所。日本手ぬぐいを掛けている木は、家を建てたときにやむを得ず切った柳を、「もったいないからリサイクルして」という治身さんに応えてご主人がデザインしたもの。「鏡のウェーブとのバランスが気に入っている」と治身さん。右手が浴室です。


二部流パーティメニューのひとつ、「朴の葉寿し」。朴の葉に包んだ寿しを、各自ぽきぽき音をさせて枝からはずしながら食べます。具は、豆、にんじん、しいたけ、卵焼き、じゃがいも、山椒の葉。「季節の花を氷やゼリーに封じ込めたり、紅葉した落葉を押し寿しにしたり。いろいろ演出して楽しみます」。
この家の設計をしたのは、建築家であるご主人の二部誠司さんです。治身さんはすべてを任せましたが、ひとつだけ希望したのが「台所を見晴らしのよい場所に」ということでした。

「台所が私の仕事場。畑に行っているとき以外は台所にいますから。一日中、コンロの火を止めることがないくらい、ずうっと煮炊きをしている。それが全然苦じゃないし楽しい。旬のものを誰かに食べさせてあげたいし、採ってきた野菜や草花は、ひとつも捨てたりしないで、最後まで食べ尽くしてあげたい。それが自然に対する礼儀やと思っています」

写真の通り、L型キッチンのコーナーにあるシンクの前は大きな窓。洗い物をしながら、樹木や遠くの街や山々が眺められます。シンクの右手には、業務用のガスコンロ。二部さんは、点火スイッチを使わずにわざわざマッチをすって火をつけます。

「マッチの火をガスのところまで持っていって、パッと火がつくまでのちょっとした間。その間が好き。便利すぎるのは好きでないんです。何でも便利になりすぎて、そのツケは大きいと思いますよ」

だから、程よい不便をした方がいいのではないかと考え、また、その不便を愛する二部さん。例えば愛用の中国製魔法瓶も、飲む都度くるくるくるっとフタを回してお茶を注ぐ、そのわずかな時間が

「ええでしょ?」。




二部さんは、自宅の庭のほかに100坪の畑で、有機農法で草花や野菜を育てています。毎朝4時過ぎには畑へ。

「27年前から畑仕事をしていて、自然からいろいろなことを教わりました。こんなに小さな種から花が咲き、咲き終わったら種をつける。それに多くのものが挿し木でつく。コスモスだって挿し木でつくんです。自然の力強さにいつも感動するし、人間のちっぽけさも感じます。都会暮らしの人も、ベランダで種から育ててみるといい。都会にも虫がいたり、チョウチョがきたりするし、それを活けたり食べたりする楽しさや大切さがわかると思いますよ」

インテリア雑誌の撮影に訪れた外国人カメラマンが、二部邸に一歩足を踏み入れるなり「この家には愛がある!」と言ったというエピソードがあります。こぼれ落ちた実の一粒まで、小さなガラスに活けて愛でる二部さんの暮らしから、「愛」が自ずと伝わったに違いありません。


2階のリビング。右手が南面で、空中リビングのある方向です。普段は窓を全部開け放ち、夏もエアコンは使いません。無垢の木の大テーブルは、男性7人がかりで持ち上げたというもの。左奥の壁際に活けた朴の花が、芳しい匂いを発していました。

写真=増渕達夫
photo=Tatsuo Masubuchi
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