
辰巳家の玄関は2階にあります。西側にある外階段を上っていくとき、訪れる人の目をうばうのが、地面から3階のテラスにまでからみながら壁を覆っている植物の蔓。
「アケビなんですよ。3階の西側が私の寝室になっているのですが、コンクリートのベランダが西陽に焼けて、夏の夜はそれは寝苦しかったのね。水を何杯もまいて熱気を払って、それから寝ていたけれど、こんなことはやってられないわと思って(笑)。庭に自生していたアケビを階段の下から這い上がらせることを考えたの」
25年くらいになるというアケビは、年々繁みを増して辰巳さんのもくろみどおり通風性のある日覆いとなりました。毎年春にはやさしい色あいの花を咲かせ、夏には実がなります。西陽で暑いから、とやすやすとエアコンを使ってしまう生活の中からは、決して生まれてこなかったこの斬新な発想。その土地の自然をじっと観察し受け入れながら、生活しやすいようにと工夫していく知恵。
「アケビが難しいなら山芋もいいですよ。食べ残しの端っこを植木鉢に植えておけば芽が出るから、それをベランダに這わせればいい。秋にはムカゴ(実)も収穫して食べられますしね」
本の原稿執筆や、料理教室、講演など多忙な辰巳さんの息抜きは、趣味の聞香や庭山の散歩。「目には見えぬものだからこそ」光や風、空気などの存在を大切にされています。
 |
廊下からリビングを眺めたところ。南に面した大きな窓からは、太陽光がサンサンと差し込むため、葦簾で光の量と差し込む距離を調節しています。建具も天井も板張り。「木に囲まれていると落ち着くから」。簡素な空間が好みという通り、光と風が主役のリビングです。 |
|
 |
| 3階西側の寝室前のコンクリートを覆うアケビの日除け。これから夏になると葉が厚く繁り、西陽をさえぎります。 |
 |
| ご両親の金婚式のお祝い弁当の献立(金沢大友楼の主人の書)に、お母様の着物地で表装した額。リビングの暖炉の上に飾られています。 |
 |
| 「香を聞くと、日常性が落ちていく、肩に背負っているものが下りるような気がします。まったくの別世界。だから忙しい人ほど香を楽しむ方が多いわね」。リビングにつづくダイニングルーム。 |
|